風鳴舎

ママがママらしく生きるために[第10話]

『母への手紙』

美里さん(仮名・33歳)が相談にこられたのは、「人と関わることが苦しくて、うまく生きられない」「3歳の娘と遊んでいても楽しめず、娘に悪いと思うがどうしたらいいかわからない」などの悩みがきっかけでした。

美里さんは、二人姉妹の長女として育ち、高校卒業後、就職し、28才で結婚。結婚後も仕事を続け、妊娠・出産で退職。その後復職して1年が経過していました。

美里さんは、現在の悩みが、子どもの頃の親子関係(家庭環境や親御さんの価値観・子育て)に起因していることを、本やカウンセリングによって認識し、生まれ育った家族が「機能不全家族」であること、その結果として、自身がアダルト・チルドレンであることを認め、アダルト・チルドレンからの回復のためのカウンセリングを行うこととなったのでした。

『手紙書き』はその過程で取り組んだものです。最初は気持ちやエピソードを箇条書きにすることから始まり、次第に溢れ出してきた感情を手紙にすることで、それまで封印し、暗やみに置き去りにされてきた感情を、光にさらすことで縮めるという作業が繰り返されました。

 自身にもたらされた悪影響やその背景について洞察を深めていく中で完成されたのが次の手紙です。

 

母へ

あなたへ伝えなければならないことがあります。

長い間、私はそれに気づかないまま、自身の苦しみや生きづらさ、事あるごとにまとわりつく罪悪感は、ただ自分が未熟だからなのだ、としか考えていませんでした。

しかし、それらが実は、あなたがた親に起因している、そう言われたらあなたはどうするでしょう。私は数冊の本によってそれを知り、現在受けているカウンセリングによって、そのことに確信を持つようになってきました。

私はいつからあなたに気持ちを伝えなくなったのでしょう。それが何よりもいけなかった。良いことだったら、あなたが喜ぶことだったら伝えられた。しかし、あなたが悲しむこと、困ること、そしてムッとするような、あなたにとって都合の悪いことは伝えられない。それが何よりも良くなかった。

「お母さん、私は痛くて泣いているのに、悔しくて泣いているのに、悲しくて泣いているのに、大丈夫 大丈夫、それくらいのことで泣かないの、と言わないで!」

「お母さん、いつお母さんが怒りだすか、私、怖くてビクビクしているよ。お願いだから優しくして! 優しく笑って!」

「お母さん、どうして妹を私に押し付けるの? 私はお姉ちゃんになりたくなんかなかった! 妹にまとわりつかれて私、全然楽しめない! 私ばかりこんなに我慢しなくちゃいけないなんて嫌だよ」

「お母さん、どうして妹をつくったの? 私はもう甘えちゃいけないの?」

「お母さん、もっと私のことを見て! かまって! 愛して!」

幼い私は、このような本当の気持ちや願いを言葉にすることができなかったのです。言葉にしても届かないし、あなたの反応によって、愛されていないという実感と直面させられるのが怖かったのだと感じています。あなたの圧力や心ない反応に対し、幼かった私はあまりにも無力でした。幼く無力であなたに気持ちを受け止めてもらうすべを持たなかった私の心は、いとも簡単に裏切られ、傷ついたのです。そしてそのことがトラウマとなって、これまで私の人生を支配してきました。

人に甘えることができない。人を信じることができない。我慢ばかりを選んでしまう。自分さえ我慢すれば良いと自分を犠牲にしてしまう。人にどう思われるか、嫌われるのではないか、顔色が気になって自分らしく生きられない・・・。あなたから負わされた心の傷がもたらした私の苦しみは、これらのようなことの中にあるのです。

あなたは、このことについて、「自分のうまくいかないことを何もかも親のせいにしないで」と言うかもしれませんが、無力だった子ども時代の私に、悪気は無くとも心に傷を負わせた事実、そのトラウマが現在まで悪影響を及ぼし続けているという事実をあなたは受け止める責任があります。私が負わされた苦しみの責任は、あなたにすべてお返しします。

 

私が、カウンセリングや本を用いて解決に取り組んだのは、アダルト・チルドレンの問題です。

アダルト・チルドレンとは、子どもの健康な心の成育や健全な人格形成に悪影響を与える親のもとで育ち、受けた心の傷が癒されないまま大人になり、成長してもなお精神的影響を受け続け、心の闇を抱える人々を指したもので、他にも以下のような特徴があります。

・対人関係が苦手、情緒が安定しない、何かに縛られて息苦しいなどといった生きづらさについて、「自分のせい」「自分が悪い」「ダメな人間だ」と自責的であるが、実はその生きづらさは、親との関係に起因したものである。

・幼少期から、寂しさ・悲しみ・怒りなどの負の感情を受け止めてもらえず、我慢を強いられてきたため、自分の本当の気持ちを感じ取ることができなくなっている。

・親(大人)の考えや価値観を取り入れながら育ったことで、子どもの頃から大人化されていて、親や大人側のみに立ったものの見方しかできなくなって子ども側の気持ちがわかってあげられない。

アダルトチルドレンとは、このようなものが自分にあることを自覚し、実はその生きづらさは、親との関係に起因したものであることを認めた人が、その責任は親にあるということを知って、自責の念から解放されるための大切な用語なのだそうです。

アダルト・チルドレンから回復するためのカウンセリングの中で明らかになった問題で、最も重大だったのは、知らず知らずのうちに溜め込まれていたあなたへの怒りやあなたとの間で満たされなかった要求(欲求)が、夫や子どもに向けられていたという事実でした。対人関係で引き起こされる感情自体、あなたがた親に起因したもので、それが置き換わって、呼び起こされることで心が簡単に波立ち、不安を起こし、イライラや怒りを誰よりも大切なはずの、自分がつくった家族に向けてしまうのです。

私は思いました。あなたが私に向けた怒りは、本当はあなたの親に向けるべきものだったのだ・・・。

以前私があなたの幼少期について尋ねた時、あなたは親は厳しかったけど、親は親なりに色々大変だったと思う、感謝している、と言っていました。しかし、私には、幼かったあなたの悔しさ・寂しさ・悲しみ・怒りが、未解決のまま放置されているのがわかるのです。

私が抱えてきたアダルト・チルドレンの問題は、私だけの問題ではなく、あなたのルーツによってあなたに受け継がれた、あなた自身の問題でもあるのです。

私の心の傷の深さはあなたの罪の深さです。どのような理由があっても、罪の無い大切な家族を傷つけた事実と向き合い、その罪は償わなければなりません。その、自分がつくった家族を傷つけた私の怒りの原因がたとえあなたによって植え付けられたものであったとしても、私自身が責任を負って精算し、償わなければならないのです。あなたに歪められ、濁された心に直面し、それを回復させる作業も、どれほど苦しく大変なものであるか。

あなたにはそうして償う意志が持てますか? 少なくとも、私がこうしてあなたに伝えようとしていることの意味を理解し、その罪と向き合うには、あなたに受け継がれたアダルト・チルドレンの問題を切り離すことはできないでしょう。そして、あなたが、あなたの心の中に置き去りにしたままの傷ついたあなた自身と向き合い、私の痛み苦しみを、自分のものとして感じ取ることができない限り、私とあなたとの関係性が変わることはないのだと思います。つまり、あなたに問われている償いの方法は、あなた自身にアダルト・チルドレンが受け継がれていることを認め、あなたのルーツによって歪められ、濁された心に直面し、それを回復させる作業に取り組むこと。それに尽きるのではないかと思います。

現在の私は、あなたに望むこと、求めるものは何もありません。あなたが償うこと、切り離してしまうこと、どちらを選んだとしても、これからの私の人生には影響を受けない生き方を私は選ぶからです。ただ、人として、親として、償わなければならないものがあるとしたら、それに気づくようにと、あなたに何か現象(症状)や問題を起こして、常にあなたを促し続けるのだと思います。

2015.9.29 更新