「絵本作家になりたい」――保育士として子どもたちと過ごした4年間が、その夢を一冊の絵本にした

「絵本作家になりたい」――保育士として子どもたちと過ごした4年間が、その夢を一冊の絵本にした

『エトのさがしもの』

絵・藍 日可る(あい ひかる)さんインタビュー

 園の創立70周年を記念して生まれた絵本『エトのさがしもの』。絵を手がけたのは、同園で保育士として働く、藍日可るさんです。

絵本作家になることは、藍さんが高校生の頃から密かに抱いてきた夢でした。保育士として子どもたちと向き合う日々のなかで巡ってきた、思いがけない大きな機会。園の絵本制作チームとおよそ4年にわたり話し合いを重ね、一枚一枚の絵を描き上げた藍さんに、夢の原点と制作の舞台裏、作品に込めた願いを聞きました。

高校の美術の授業で出会った、絵本づくりの面白さ

――絵本作家になりたいと思ったきっかけを教えてください。

最初のきっかけは、高校の美術の授業です。先生がカリキュラムに本の制作を取り入れてくださり、さまざまな絵本を紹介してもらいました。そこで絵本の世界の奥深さに触れ、授業の一環で絵本制作の体験をしました。それがとても面白くて。「これが仕事になったら楽しそう」「手に取った人が笑顔になってくれたら素敵だな」と思ったことが、夢の始まりでした。

一方で、将来は人の役に立つ仕事がしたいという気持ちもありました。絵本にも日常的に触れながら、人のために働ける仕事を考え、保育の道へ進みました。大学では福祉を学び、保育士資格を取得。忙しいなかでも、プライベートで油絵や水彩画、デジタルイラストなど、絵を描くことは続けていました。

入職直後に訪れた、夢への大きなチャンス

――『エトのさがしもの』を描くことになった経緯は?

 園に入職した際、創立70周年に向けて絵本を作る構想があり、「絵を描いてみない?」と声をかけていただきました。当時はまだ現実味がなく、まずは保育士として頑張ろうと思っていましたが、そのお話が本当に動き始めたんです。私にとって、とても大きなチャンスでした。

エトは、以前から私の中にいたキャラクターではありません。絵本制作チームのみんなで「どんな物語にしよう」「主人公はどんな子がいいだろう」と話し合うなかから生まれました。園が大切にしてきた思いを物語に込め、少しずつエトの姿や動物たちの個性を形にしていきました。

 

一枚ごとに紙を水張り。約40ページを水彩で描く 

――絵は、どのように制作したのでしょうか。

大まかなラフを描き、同時に水彩画を描くための紙を準備しました。水彩絵の具を使うと紙が波打つため、あらかじめ紙を水で湿らせ、板に固定して乾かす「水張り」が必要です。高校の美術部で先生から教わった方法を思い出しながら、約40ページ分、描くたびに一枚ずつ準備しました。 

水張りがしわになり、やり直すこともありました。保育の仕事を終えた夜に作業する日もありましたし、制作のための時間をいただくこともありました。物語を固めるまでに約2年、その後、水張りをして水彩画を描き上げるまでに約2年。園全体で構想を始めてから完成まで、およそ4年にわたる制作になりました。

子どもたちや先生の姿を、動物たちの個性に重ねて

――エトや動物たちの、愛らしく温かな表情が印象的です。

物語には、わくわくする場面だけでなく、誰かに助けてもらう大切な場面もあります。私の中にはモデルとして思い浮かべた子どもや先生がいて、その人らしい特徴を遊び心として絵に重ねました。

かわいらしい子もいれば、おじいちゃんのような雰囲気のライオンもいます。子どもたち一人ひとり違うように、登場する動物たちにも、それぞれの個性を持たせたいと思いました。制作チームで話していると、「この性格は、あの子みたいだね」と園の子どもたちの姿が重なることもありました。


保育士になったからこそ描けた絵本

 ――保育の現場で得た経験は、作品にどう生きていますか。

入職したばかりの頃は、子どもたちがどのように絵本を楽しむのか、まだ十分に分かっていない部分がありました。けれど、保育士として経験を重ね、園ではどんな絵本が読み聞かせに選ばれるのか、家庭では親子がどのように絵本を楽しむのかを学ぶことができました。

その経験があったから、子どもたちの姿を生き生きと想像しながら描けたのだと思います。言葉の使い方や表現についても、絵本制作チームの保育士みんなで「こちらのほうが温かいのでは」「子どもにはこの表現が伝わりやすいのでは」と意見を出し合いました。保育士だからこその視点が、絵にも物語にも生きています。

「助けて」と言えることも人とつながるための大切な力

――この絵本を、どのように読んでほしいですか。

物語には、「たすけて」「だいじょうぶ?」など、人と関わり、つながっていくために大切な言葉が登場します。そうした場面が心に残るよう、意識して描きました。

絵本を読んだ子どもたちが、「あたたかいな」「自分も誰かにしてあげたいな」と感じてくれたらうれしいです。そして困ったときには、自分から「助けて」と言っていい。誰かに助けを求めることの大切さも、感じ取ってもらえたらと思います。

創立70周年を記念するこの絵本は、私にとっても、園の職員にとっても大きなプロジェクトでした。完成した本を子どもたちがどのように読んでくれるのか、今からとても楽しみです。

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小さな主人公エトは、さがしものを求めて動物たちと出会い、さまざまな経験を重ねていきます。そこで交わされる言葉や、相手を思うしぐさの一つひとつ。『エトのさがしもの』には、保育の現場で子どもたちを見つめてきた作り手たちのまなざしと、藍日可るさんが長年育んできた夢が、やさしい水彩画とともに息づいています。

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